「10万円給付」始まる

18歳以下の子どもへの「10万円給付」が一部の自治体で始まった。給付方法は自治体によって異なる。①現金10万円の一括給付②現金5万円の2回給付③現金5万円とクーポン5万円分の給付。この3パターンから自治体が選択する。

「10万円給付」は3方式から自治体が選択する
「10万円給付」は3方式から自治体が選択する
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給付対象には主たる生計者の年収が960万円未満という所得制限が設けられているが、独自の判断で制限を設けない自治体もある。実に複雑な姿になってしまった。不公平感のさらなる拡大が懸念される。

クーポン給付の原則が崩れた

臨時国会は盛り上がりに欠けたまま閉会した。岸田文雄首相は16日間にわたって低姿勢を貫き、補正予算を審議する衆参予算委員会も「丁寧で寛容な政治」で乗り切った。ただ、「10万円給付」をめぐってはクーポン問題で混乱。制度設計の不備や見通しの甘さが浮き彫りとなった。

「10万円給付」について政府は当初、現金5万円と5万円分のクーポンを組み合わせる計画だった。自民・公明両党の幹事長が11月に協議して合意したものだ。所得制限の導入も含めて協議はわずか3日間というスピード決着だった。現場で給付を行う自治体のことを考慮せずに行われた制度設計。衆院選の公約実現を急いだことが裏目に出た。

事務を担う自治体からは「事務負担があまりにも大きい」といった反発が相次いだ。さらにクーポンの印刷など事務経費に967億円がかかることも明らかに。岸田政権は方針転換せざるを得ない状況に追い込まれていった。

衆院予算委での初日、岸田首相は与党の質疑で「年内からでも10万円の現金を一括で給付する。こうしたことも選択肢の一つとしてぜひ加えたい」と表明。野党の追及が本格化する前に先手を打ち、5万円は原則クーポンという計画をあっさり撤回した。「判断が遅かった」という野党側の批判に対しては「さまざまな声をしっかり受け止めた結果。より良い制度設計を行うという結果であると思う」と釈明した。

予算委員会で「現金10万円一括給付」も容認
予算委員会で「現金10万円一括給付」も容認

“所得制限撤廃”の自治体も

岸田首相の発言を受け、政府は全額現金での給付を認めるとする指針を自治体に通知。さらには自治体の負担であれば所得制限を撤廃することも認めた。自治体によってもらえる時期が異なることはある程度仕方ない。だが「10万円給付」は国が導入した事業だ。それにもかかわらず「所得制限あり」の自治体と「所得制限なし」の自治体が混在する現実を住民はどう受け止めるのだろうか。自民・公明両党が推し進めた経済支援策は、紆余曲折を経て国民の「モヤモヤ感」を払拭できないまま実行されることになった。

「大切なことは国民の利益」

臨時国会の閉会を受けて開かれた記者会見で、岸田首相は「10万円給付」について次のように語った。「給付等の政策については、衆院選が終わって年末までにどうしてもこの様々な支援を国民のみなさんに届けなければならないといった思いで用意させていただいた。自治体のみなさんの意見、国会での議論をできる限り幅広く受け止めた上で、変更すべきと感じたことについては政治として思い切って判断した。大切なことは、要は国民の利益になるようにするためにはどうしたらいいか、国民の利益になるように常に制度の見直しを行っていく、こういった姿勢であると思っている」。

臨時国会の閉会を受けて記者会見する岸田首相
臨時国会の閉会を受けて記者会見する岸田首相

今回の方針転換については「柔軟な対応だ」と評価する向きもある。しかし、方針を見直したことで自治体の対応は混乱し、何を狙いにした政策なのかも一層わかりにくくなった。

岸田内閣の支持率は堅調だ。今月18、19日に実施したFNN世論調査では「支持する」が66.4%と前回調査から3.2ポイント上昇している。新型コロナウイルス対策などへの評価が支持率上昇につながったものとみられる。コロナの影響を受けた家庭や事業者への支援が岸田政権にとって最重要課題であることは間違いない。それだけに拙速な政策決定や、方針が二転三転するドタバタ劇が繰り返されるようなことがあれば、政権への信頼は一気に失われかねない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 安部俊孝】

安部俊孝
安部俊孝

フジテレビ報道局解説委員。海部政権末期に政治記者になり、以来30年あまり永田町をウォッチ。自民党、野党、外務省などを担当して第一次安倍・福田・麻生政権時に首相官邸キャップを務めた。福岡県出身。早大商卒。好きなものはビール、旅、ラグビー、ブラジリアン柔術。