フィリピンの首都マニラの国際空港で3月29日、羽田行きチャーター機が墜落した。現地滞在中のカナダ人の患者を東京に医療搬送するための飛行機で、乗っていた医療スタッフら8人全員が死亡した。ここで一つ疑問が残る。なぜカナダ人の患者はマニラで治療を受けずに、東京を目指したのか。

実はカナダ人男性は、フィリピンの複数の病院から受け入れを拒否されていた。新型コロナウイルスの対応で病院側に受け入れる余裕がなかったためだった。男性は羽田経由で母国カナダに向かう途中だったという。

外出制限措置が出ているマニラ市内 車の通りはほとんどない
外出制限措置が出ているマニラ市内 車の通りはほとんどない
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東京行きの医療搬送チャーター便が墜落

マニラ国際空港で3月29日午後8時過ぎ、羽田行きの小型チャーター機が離陸に失敗して炎上し、乗客乗員全員が死亡した。小型機はフィリピンの会社が運航する医療搬送用で、同機にはカナダ人の患者と付き添いのアメリカ人、それにパイロットや医師・看護師らフィリピン人の6人の、あわせて8人が搭乗していた。

(JHUN GIL SIRIBAN AGUHOB)
(JHUN GIL SIRIBAN AGUHOB)

墜落死した乗員の友人によるとカナダ人の患者は、フィリピン国内で蚊に刺され、ジカウイルスに感染していたという。ジカウイルスに感染するとジカ熱を発症し、発熱や頭痛などの症状が出て、重症になることもある。患者の男性は重症だった。

新型コロナ患者受け入れ停止が相次ぐ

首都マニラには、最先端の医療を受けることが出来る複数の私立病院も存在する。こうした病院ではジカ熱を患う外国人患者も通常は治療を受けることが出来る。ではなぜカナダ人の患者は、マニラの病院で治療を受けずに羽田へ医療搬送されることになったのか。
義理の娘によると、羽田経由で母国カナダに搬送される予定だったという。

墜落死した乗員の友人によると、患者のカナダ人男性はジカ熱を発症後、フィリピン国内のいくつかの病院を訪れたが、受け入れを拒否されたという。新型コロナウイルス対応により、病院側の収容能力が限界に達していたからだった。

マニラにある複数の病院では、先週から患者の受け入れが難しくなり始めていた。多くの在住日本人も利用する「マカティ・メディカルセンター」は3月24日、フェイスブックで「満床」を宣言し、新たな新型コロナウイルス感染者を受け入れられないと発表した。

新型コロナウイルス新規患者の受け入れ停止の発表文
新型コロナウイルス新規患者の受け入れ停止の発表文

同じくマニラ首都圏にある「メディカルシティ」や「セントルークス・メディカルセンター」も、新型コロナウイルスの新規患者受入れを停止する声明を発表した。いずれも最新の設備での治療を受けることが出来る私立病院で、在住日本人や旅行者にとって頼れる医療機関だ。

新型コロナウイルスの患者対応は、病院全体の医療体制にも打撃を与えていて、別の病気の治療や、受け入れ態勢を縮小する病院も増えている。

防護具不足で…医師13人がこれまでに死亡

医療現場の最前線は、さらに厳しい状況だ。多くの医療関係者が新型コロナウイルスに感染して命を落としている。

現地の医師会によると、これまでにフィリピン国内で医師13人が新型コロナウイルスに感染して死亡した。また感染者と濃厚接触した数百人の医療従事者が、14日間の自主隔離に入っていて、新たな患者に対応できない状況になっている。医師の家族にも感染が広がった。

なぜここまで多くの医療関係者がウイルスに感染してしまうのか。
それはウイルス感染を防ぐためのマスクやゴーグルといった医療従事者用の防護具が不足しているのが原因と指摘されている。現地の医師会や医療関係者からは、防護具の不足を訴える声があがっている。また患者が自分の行動履歴を隠したまま治療に訪れることも多いという。

こうした厳しい環境の中で、病院は増加の一途をたどる新型コロナウイルスの感染者に対応し続けなければならず、各地での院内感染も拡大しつつある。

食料品買い出しのために並ぶマニラ市民
食料品買い出しのために並ぶマニラ市民

フィリピンではルソン島での都市封鎖が2週間を経過したが、感染者は今も増え続けている。3月31日には新規感染者が538人と急激に増えていて、全感染者は2084人、死者も88人にのぼる。フィリピン政府にとっては、新規感染者の抑え込みと医療関係者への充実した防護具の提供が最大の課題であり、これが実現できないとフィリピンはより深刻な医療危機に陥る可能性がある。

【執筆:FNNバンコク支局長 佐々木亮】

佐々木亮
佐々木亮

物事を一方的に見るのではなく、必ず立ち止まり、多角的な視点で取材をする。
どちらが正しい、といった先入観を一度捨ててから取材に当たる。
海外で起きている分かりにくい事象を、映像で「分かりやすく面白く」伝える。
紛争等の危険地域でも諦めず、状況を分析し、可能な限り前線で取材する。
フジテレビ 報道センター所属 元FNNバンコク支局長。政治部、外信部を経て2011年よりカイロ支局長。 中東地域を中心に、リビア・シリア内戦の前線やガザ紛争、中東の民主化運動「アラブの春」などを取材。 夕方ニュースのプログラムディレクターを経て、東南アジア担当記者に。