福岡地裁から死刑判決を言い渡された「工藤会」総裁の野村悟被告(74)。殺人などへの関与を示す直接的な証拠がない中で争われた“異例の裁判”。

「画期的」と指摘する元検察官で弁護士の若狭勝氏が解説します。

「忖度」か「指示」か “証人のべ91人” 検察の戦術は?

2019年10月の初公判から2021年3月まで62回の公判が開かれ今回の判決に至りました。「証言台」に立ったのは元組員や県警捜査員らのべ91人もの関係者です。

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若狭勝弁護士:
今回の事件は、組員が総裁に対しての「忖度」をした犯行だったのか?あるいは、「忖度」ではなく総裁が組員に対してなんらかの「指示」をしたのか?その争いなんです。今回はその意味では、殺人の被害者が1人でトップから命じられたという供述を明確にしている組員は一人もいない状況。推認でした。裁判所は、状況証拠によって今回は「トップの指示系統があった」という認定をしたわけですけど、その意味では今までの刑事司法のいわゆる「共謀」という「指示」があったかどうかということについて言うと、今までの枠組みを少し頑張ってというか、超えているというような評価ができなくもないです

ーー今回の判決、今後の暴力団捜査に影響は?

若狭勝弁護士:
影響を与えると思います。今まで、暴力団捜査においてはトップの関与がうかがえると思ってもそこまでは辿り着けない高い厚い壁があったんです。今回の判決によって高い厚い壁が少し低くなった。ですから、「トップに推認、状況証拠でもいけるんだ」ということで捜査に弾みがつくという影響はでた。民事的には、トップ、組長の責任として認められてきたのですが、刑事事件はやはり民事よりも証拠関係をより厳格に見るという傾向がやっぱりあるので、これまで慎重だった。ところが、今回の判決において刑事事件でも証拠の評価が少し民事的な発想に近づいていったということになると、捜査に弾みがつくという影響は出てくる

裁判長に「生涯後悔するぞ」威嚇の波紋

閉廷後、野村被告は裁判長に対しこう叫びます。「公正な裁判をお願いしたのに全然公正やないね。全部推認、推認、推認。こんな裁判があるか!あんた生涯、この事後悔するよ

裁判長が2度にわたって退廷を求める事態になりました。

若狭勝弁護士
これは意味深でありまして、例えば組員が野村被告の最後の言葉を忖度して、これは「組長が攻撃をしろって言ってるんだ」という忖度をしてなんらかの挙に出てしまうと、野村被告の最後の言葉が「共謀」として「指示」として捉えられるかっていうと、私は結論的に難しいと思うんですね

ーー野村被告の弁護側は控訴する方針で、上級審の行方はどうなるのでしょうか?

若狭弁護士
今後一審判決だけではなく、高等裁判所、あるいは最高裁判所が、この一審の判断が正しかったかと、じっくりと今後着目していく必要があると思います

(めざまし8  8月25日放送より)