ハマスの「サマーキャンプ」募集に多くの子供たちが…

今年5月、イスラエルに対して4000発近いロケット弾を撃ち込む無差別テロ攻撃を実行したイスラム過激派組織ハマスが、毎年恒例の「サマーキャンプ」の参加者を募集した。

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このキャンプの目的は、「解放の世代に対し、ジハードの炎を燃やし、イスラム的価値観を植え付け、パレスチナ解放のための勝利の軍隊を準備すること」にあるとされる。主催しているハマスの軍事部門「カッサーム旅団」はメッセージアプリのアカウントで、多くの子供が参加登録所につめかける様子を写真で公開した。

サマーキャンプの参加登録所につめかける様子
サマーキャンプの参加登録所につめかける様子

明らかに小学生程度と見られる少年たちが、無邪気にピースサインをする様子も映されている。

「サマーキャンプ」という言葉から想像される内容ではない

しかしハマスのサマーキャンプは、通常サマーキャンプという言葉から想像されるような、子供がゲームやスポーツ、文化的活動をして楽しむという類のものではない。子供たちに基礎的軍事訓練とイデオロギー教育を施すためのものだ。具体的にどのような活動をしているかは、ハマスの広報ビデオからもその一部を垣間見ることができる。

火のついた大地を走り抜ける訓練
火のついた大地を走り抜ける訓練

火のついた大地を走り抜ける訓練や、銃を撃つ訓練、匍匐前進や燃え盛る輪をくぐり抜ける訓練などの他、トンネル戦やゲリラ戦など実戦を想定した多岐にわたる訓練が実施されていることがわかる。訓練では実弾が使用され、ロケット弾の発射訓練なども行われている他、ジハードや「パレスチナの大義」についての講義など座学も含まれる。

銃を撃つ訓練
銃を撃つ訓練
匍匐前進の訓練
匍匐前進の訓練
燃え盛る輪をくぐり抜ける訓練
燃え盛る輪をくぐり抜ける訓練

幼少期から憎悪や敵意を教え込み、鍛える必要がある

なぜハマスが毎年このようなサマーキャンプを開催しているかというと、次世代の戦闘員、「イスラエルとのジハード」の担い手の育成がハマスの政治戦略の一環だからである。

1988年に公開された「ハマス憲章」の第15条と16条には、「我々の地域における教育」は西洋人の「思想的侵略」から解放されたイスラム的教育でなければならず、そこでは「パレスチナ問題は宗教問題」だと教えこまれなければならないのであり、「神のために攻め込んで死ぬ」ことをいとわないジハード戦士を育成する必要がある旨について記されている。

「ハマス憲章」には、ハマスがイスラエルとのジハードのための組織であり、その目的はユダヤ人を殺し、イスラエルという国家を殲滅し、イスラム国家に置き換えることであるという主旨も記されている。その実現のためには、幼少期からイスラエルやユダヤ人に対する憎悪や敵意を教え込み、軍事訓練で鍛える必要があるというわけだ。2014年のキャンプの卒業式では、ハマス幹部が「ジハードはあなたたちのジハードとなるのだ」と呼びかけ、子供たちが「我々の最大の望みはアッラーの道における死だ」と叫ぶ様子が報告されている。

ハマスの報道官は、2015年のサマーキャンプには小学生から大学生までの5万人が参加したと述べた。キャンプはハマスが実効支配するガザ地区の数十カ所で実施され、中には女子だけのキャンプも存在する。

キャンプ参加者の一部は、実際にハマスの戦闘員として勧誘され実戦に投入されていると強く疑われている。6月14日にハマスが19歳で死亡したと発表した戦闘員の、ハマス入隊当初の写真は15歳前後に見える。
 

死亡と発表された19歳戦闘員のハマス入隊当初の写真
死亡と発表された19歳戦闘員のハマス入隊当初の写真

ハマスは子供を「人間の盾」として利用している

ハマスによる子供の人権侵害は軍事訓練や過激思想教育に留まらない。今年5月のイスラエルとハマスとの戦闘時には、ロケット弾の誤射により子供2人を含むパレスチナ人8人が死亡したとパレスチナの子供の人権保護を掲げるNGOが報告した。過去にもハマスのロケット弾の誤射により、ガザの子供たちが死亡した事例は多く報告されている。ハマスはパレスチナ解放のためのジハードという「正義」のためであれば、パレスチナの子供の犠牲など厭わない。

また5月に停戦が発効した後には、ガザにある国連運営の学校の下でハマスが作戦に用いるトンネルが発見されたと国連が発表した。国連学校では過去に何度もハマスのトンネルや武器が発見されている。ハマスは子供を「人間の盾」として利用しているのだ。

欧米諸国はハマスをテロ組織として指定している。日本でもハマスは公安調査庁の国際テロリズム要覧に掲載され、日本政府もハマスを資産凍結の対象としている。

こうした実態に則し、ハマスは子供の人権を踏み躙り、洗脳し、利用する、残虐非道なテロ組織であると認識されるべきである。

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】

飯山陽
飯山陽

麗澤大学客員教授。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム教再考』『中東問題再考』(ともに扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)などがある。FNNオンラインの他、産経新聞、「ニューズウィーク日本版」、「経済界」などでもコラムを連載中。