中国での人権侵害の非難決議は採択されぬまま通常国会閉幕

2021年の通常国会は6月16日、150日間の会期を終え閉会した。それと同時に、この国会での採択が検討されてきた、中国政府によるウイグル族などに対する人権侵害への非難決議は、この国会で採決されることなく終わることとなった。

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中国の人権問題を巡っては、欧米各国が非難決議を可決するなど、世界中から厳しい目が向けられていて、米国でもトランプ政権からバイデン政権への政権移行後、対中政策は“同盟国と協力し包囲網を強める姿勢”に転じている。

その中で日本の国会でも3月頃から、日本ウイグル議員連盟(古屋圭司会長)、日本・チベット国会議員連盟(下村博文会長)、南モンゴル支援議員連盟(高市早苗会長)、人権外交を超党派で考える議員連盟(中谷元共同代表)の4つの議員連盟が協力して、“人権侵害に対する非難決議の国会での採択”を模索してきた。

決議案には今年2月に起きたミャンマーの軍事クーデターへの非難も加え、非難の対象が中国だけではない形とする配慮をとった内容となったが、それでも4月の菅首相による訪米前の採択は見送られ、ミャンマーへの非難決議が単独で採択された。さらに中国への対応を議題とするG7サミット前の採択も見送られ、日本の立法府として中国の人権問題に対する姿勢を示せないまま、国会最終盤を迎えた。この間すでに、立憲民主党や国民民主党などの野党も非難決議を了承する党内手続きを終えていた。

決議に慎重だった公明党・自民党中枢VS自民保守派の駆け引き

しかし決議採択に一貫して慎重だったのが、中国と長年にわたり関係を築いてきた与党・公明党と、その公明党に配慮する自民党中枢のラインだった。膠着状態の打開に向け、保守派でチベット議連会長の自民党・下村政調会長は14日、公明党・竹内政調会長に与党の政策全般を議論する「与党政策責任者会議」の開催を提案したが、公明側は「15日午前に党幹部会で内容を議論する」として与党政策責任者会議の開催に応じなかった。

下村氏ら各議連幹部は、国会対策全般を取り仕切る自民党の森山国対委員長とも会談、採択実現に向け断続的な交渉を続けた。そして14日午後5時、下村氏と日ウイグル議連会長の古屋元国家公安委員長らが、党運営のトップである二階幹事長に決議採択を直談判した。関係者によると二階氏は下村氏らの訴えを聞き、いったんは納得した様子を見せたという。ただ、決議に必要なサインを行おうとした際に、二階氏側近がサインを止め、了承を取り付けることが出来なかったという。それでも下村氏らは、この会合で二階氏側から15日午後に行う「二幹二国」(=自民・公明の幹事長・国対委員長会談)で非難決議を公明側に説明するとの約束を得て、国会閉会前日である15日のこの会談に採択の結論は委ねられた。

安倍前首相も水面下で採択を後押し

一方、自民党内保守派の代表格である安倍前首相も、自民党の対中姿勢を明確にすべきだとして下村氏を後押しした。それを受け下村氏は15日朝に、通常は国会決議の党内手続きには必要のない党の外交部会・外交調査会にあえて決議案を諮り、満場一致で了承を得た。決議採択に向けた推進力にしようとしたのだ。

終了後、下村氏は「この問題に対する国際社会の懸念はG7サミットでも首脳声明に明記され、自由・民主主義・人権・法の支配等の基本的価値を掲げる我が国として看過してはならない」と訴えた。また古屋氏は「趣旨を逸脱せずに文章を工夫することが大変だった。数多くの政党の了解を得るため最大限の努力をしてきた」とこれまでの苦労を吐露した。たしかに非難決議案の中に「中国」という文言は入っていなかった。

「二幹二国」で協議も、公明党の議論途中とされ時間切れに

そして与党の最終判断の場となるはずの「二幹二国」は15日午後0時半から国会内で行われた。二階氏側近の林幹事長代理からは、党の部会で協議したことについての説明があったが、この二幹二国の場で決議をこの国会で採択するかについて結論が出ることはなかった。

終了後に取材に応じた自民党の森山国対委員長は、中国非難決議について「二幹二国で協議をするという性格のものなのかどうか大変疑問に思っている」と語ったうえで、「公明党は手続きとしてきょう役員会に諮ったと思う。一回で結論がでるわけではないので、引き続き審議を協議していかれると。反対という意味ではなくて慎重に議論をさせてほしいと」と公明党の主張を代弁し、時間切れとの認識を示した。

3カ月にわたり採択に向けた関係者の努力が続けられてきた中国非難決議は、こうしてこの通常国会での採択見送りが決まった。G7サミットの首脳声明に「人権や基本的自由の尊重を中国に求める」と明記された一方で、日本では国会での非難決議さえ採択できなかったことについて自民党のベテランは、「自民党としては覚悟を示した。なぜできなかったのかは明確になったはずだ」と採択にブレーキをかけた与党内の勢力を突き放した。

今回見送られた「新疆ウイグル等における深刻な人権侵害に対する非難決議」の全文は下記の通りだ。

幻の“人権侵害非難決議案”全文

「近年、新彊ウイグル、チベット、南モンゴル、香港、ミャンマー等では、信教の自由への侵害、強制収監をはじめとする深刻な人権侵害が発生している。人権問題は、人権が普遍的価値を有し、国際社会の正当な関心事項であることから、一国の内政問題にとどまるものではない。

この事態に対し、一方的に民主主義を否定されるなど、弾圧を受けている人々からは、国際社会に支援を求める多くの声が上がっており、また、その支援を打ち出す法律を制定する国も出てくるなど、国際社会においてもこれに応えようとする動きが広がっている。そして、過日の日米首脳会談、G7においても、人権状況への深刻な懸念が共有されたところである。

このような状況において、人権の尊重を掲げる我が国も、日本の人権外交を導く実質的かつ強固な政治レベルの文書を採択し、確固たる立場からの建設的なコミットメントが求められている。

本院は、深刻な人権侵害に象徴される力による現状の変更を国際社会に対する脅威と認識し、これを強く非難するとともに、深刻な人権侵害行為を国際法に基づき、国際社会が納得するような形で直ちに中止するよう、強く求める。

さらに、それぞれの民族等の文化・伝統・自治を尊重しつつ、自由・民主主義・法の支配といった基本的価値観を踏まえ、立法府の責任において、深刻な人権侵害を防止し、救済するために必要な法整備の検討に速やかに取り掛かる決意である。

政府においても、このような認識の下に、まず、この深刻な人権侵害の全容を把握するため、事実関係の徹底した調査を行うべきである。それとともに、深刻な人権侵害を防止し、救済するための包括的な施策を実施すべきである。右決議する。」

門脇 功樹
門脇 功樹

フジテレビ 報道局 政治部