事実と異なる報道

「『どうして1歳の息子まで』 ガザ空爆、死者120人超」

「ガザ空爆で住宅倒壊、子供含む40人超死亡」

「イスラエル軍が報復でガザ空爆、子ども含む24人死亡」。

これらは日本のメディアがイスラエルとハマスの武力衝突を伝える記事のタイトルの例である。タイトルを見ただけで、読者は「イスラエルというのは罪のない子どもまで残虐に殺す鬼畜のような存在だ」と理解するだろう。

しかし事実は異なる。メディアはイスラエルを悪だと印象づける報道に腐心し、その主旨に沿わない事実は伝えない。メディアの伝えない事実をいくつか挙げよう。

メディアが伝えない4つの事実

(1)イスラエルを武力攻撃しているのはイスラム過激派テロ組織

第一に、イスラエルを武力攻撃しているのはハマスというイスラム過激派テロ組織であり、一般のパレスチナ人ではない。日本やアメリカ、EUなどはハマスをテロ組織指定している。今回の武力衝突がイスラエルとパレスチナ人一般の衝突であるかのように伝える報道は不正であり、ハマスがテロ組織であることへの言及を避けることはハマスのテロの正当化に他ならない。

イスラエル・アシュケロン(16日)
イスラエル・アシュケロン(16日)
この記事の画像(5枚)

(2)「貧困ビジネス」で財をなすハマス

第二に、ハマスは「聖地エルサレムの守護者にしてパレスチナ人の擁護者」を自称するが、実際はパレスチナ人も多く居住する「聖地」であるはずのエルサレムにロケット弾を撃ち込み、ガザ地区でもロケット弾の誤射や飛距離不足などで多くのパレスチナ人を殺傷している。

ガザ地区を武力で実効支配するハマスは、ガザの人々のための国際的な支援物資や資金を収奪してテロのインフラを作ったり、幹部が贅沢な暮らしをしたりしていることもよく知られている。

メディアはしばしばガザを「天井のない監獄」と描写するが、ガザ封鎖の直接的原因を作りガザの人々を抑圧している直接の「犯人」はハマスである。

メディアはハマスがあたかも「イスラエルによって抑圧されたかわいそうなパレスチナ人のために戦う正義の戦士」であるかのように報道するが、パレスチナ人のために戦うどころかパレスチナ人を人間の盾として利用し、彼らのための支援を横取りするいわば「貧困ビジネス」で財をなしているのがハマスだ。

ハマスの主張と行動が大いに矛盾していることも、メディアは決して伝えない。

パレスチナ・ガザ地区(16日)
パレスチナ・ガザ地区(16日)

(3)ハマスとメディアは「グル」である

第三に、ハマスのロケット弾攻撃とイスラエル軍の報復の空爆を同列に捉えるのは誤りである。ハマスのロケット弾攻撃は子供や女性、老人を含む一般のイスラエル人を狙った無差別テロである。ハマスはもちろん、イスラエルの子供も殺しているが、メディアはその事実も軽視あるいは無視する。一方イスラエル軍が空爆しているのはハマスの拠点やロケットランチャー、トンネル、幹部の家などであり、空爆前には近隣住民に電話やテキストメッセージなどにより退避を要請している。

またハマスは拠点を意図的に住宅地に設置し、あるいは学校や病院など民間施設にトンネルの入り口を作ったり、武器庫として使ったりすることにより、イスラエル軍にそうした民間施設を空爆させ、それを世界的なメディアに取材させ、国際的な非難をイスラエルに向けさせるという戦略を長年とっている。ハマスとメディアが「グル」であることは、かつてAP通信の記者としてイスラエルを取材してきたマッティ・フリードマンをはじめとする、多くの記者や研究者が指摘している。

ガレキの中から救出される女の子(ガザ地区・16日)
ガレキの中から救出される女の子(ガザ地区・16日)

(4)イスラエル・パレスチナ紛争は「宗教戦争」ではなく「領土問題」だ

第四に、イスラエル・パレスチナ紛争をあたかも「聖地エルサレム」をめぐる宗教戦争のように報道するのも大きな誤りである。この問題の本質は領土問題である。領土問題には双方に言い分があり、日本政府はこれについて「難民、入植地、エルサレム、国境画定など個々の問題の解決を図って、イスラエルとともに共存共栄するパレスチナ国家を建設すること」すなわち「二国家解決」を支持すると表明している。これは国際的に多くの支持を集めている考え方でもある。

国連の安全保障理事会は16日、3度目の緊急会合を開き、グテーレス事務総長は両者に戦闘の即時停止を訴えた
国連の安全保障理事会は16日、3度目の緊急会合を開き、グテーレス事務総長は両者に戦闘の即時停止を訴えた

一方ハマスは、武力攻撃によりイスラエルという国家を消滅させることを目標に掲げている。イスラエルは900万人の国民を抱える歴とした国家であり、当然、国民と国土を守る自衛権を有している。アメリカやドイツ、フランス、カナダなど主要先進国はハマスのテロ攻撃に対するイスラエルの自衛権を支持すると明言している。

イスラエルだけを悪魔化しハマスのテロ行為を隠蔽する報道は、単に偏向しているだけでなく、イスラエルの自衛権を否定し、900万人のイスラエル人は殺されて然るべきなのだと主張するに等しい、極めて倫理的に問題のある報道である。

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】

飯山陽
飯山陽

麗澤大学客員教授。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム教再考』『中東問題再考』(ともに扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)などがある。FNNオンラインの他、産経新聞、「ニューズウィーク日本版」、「経済界」などでもコラムを連載中。