あなたの身近にいつも口を“ぽかん”と開けている子どもはいないだろうか?

このような状態は「お口ぽかん」とも呼ばれ、健康な口の発達に深刻な悪影響を及ぼす恐れがあるとされている。そのような中で、このほど初の全国調査が行われ、日本人の子どもの有病率が約3割あることが判明したのだ。この研究成果は今年1月に国際学術雑誌に掲載されている。

なお、「お口ぽかん」とは専門用語で「口唇閉鎖不全」と言う。

「お口ぽかん」の子ども 提供:齊藤一誠教授
「お口ぽかん」の子ども 提供:齊藤一誠教授
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子どもの口の発達に悪影響を及ぼすとされているものには、異常な話し方や飲み込む習慣、舌を出す癖、口呼吸などもある。

その中で「お口ぽかん」は、特に唇や顔の表情筋、あごの大きさなどと関連していることが明らかになっている。そして、唇を閉じる力が弱くなることで、歯を取り囲む頬や舌との圧力バランスが崩れ、上の前歯が前方に傾いたり上あごの左右にある奥歯の幅が狭くなるなど、歯並びの悪さにも関係があるというのだ。

このため「お口ぽかん」は、2018年から「口腔機能発達不全症」の一つの症状として、保険治療の対象になっている。

これまで「お口ぽかん」についての大規模な調査は行われていなかったが、新潟大学の齊藤一誠准教授(現・朝日大学教授)らの研究グループは、全国小児歯科開業医会(JSPP)などの協力を得て、2014年に全国66の小児歯科医院で初めての全国調査を実施。歯科医院に定期的に受診する3~12歳の3399人を対象とした。

調査では保護者に子どもの生活習慣を尋ね、その結果から「お口ぽかん」を示す有病率が30.7%で、さらに年齢と共に増加することが分かった。

子どものお口ぽかんの有病率 出典:新潟大学
子どものお口ぽかんの有病率 出典:新潟大学
各年齢におけるお口ぽかんの割合 出典:新潟大学
各年齢におけるお口ぽかんの割合 出典:新潟大学

そして、これらの研究結果から「子どもの『お口ぽかん』は自然治癒が難しい疾病であると考えられる」というのだ。

ではなぜ、自然治癒が難しいのだろうか? どのように治療や予防をしていけば良いのだろうか? 研究の責任著者でもある齊藤一誠氏に聞いてみた。

全国400万人の子どもが「お口ぽかん」の可能性

――「お口ぽかん」が3割という、今回の調査結果は予想していた?

調査結果は我々の予想を上回る結果となっていました。小児期の歯科口腔保健ではむし歯についての対策が最も重要ですが、12歳児のむし歯の有病率は35.5%(平成28年:学校保健統計調査(文部科学省))です。

小児期の「お口ぽかん」の有病率は30.7%ですので、小児期のむし歯有病率とほぼ匹敵する程度といえます。

全国の小児に換算すると、約400万の小児に「お口ぽかん」の可能性がありますので、子どものお口の健康を考えた時には、お口ぽかんは大きな問題となると考えております。


――なぜ「お口ぽかん」は自然治癒が難しい?

まずは、年齢が上がるに連れて有意に「お口ぽかん」の割合が増加していることが理由の1つです。また、長期間の「お口ぽかん」により不可逆的な咬み合わせの異常や口呼吸が定着すると、自然に上下の口唇を閉じることが難しくなってしまうことも理由の1つです。

例えば「お口ぽかん」は、「上唇と下唇の間から歯が見える」や「出っ歯だ」などと関連していましたが、このような状況が口腔内に生じていると、自分の意思だけでは口唇閉鎖を長期間維持することができないために、自然治癒が難しく、さらに「お口ぽかん」を増悪してしまう悪循環となってしまいます。


――では、どんな治療が行われる?

お子さんが「睡眠中に鼻づまり」や「日中鼻づまり」などの耳鼻科疾患による「お口ぽかん」の可能性が疑われる場合は、まずはその問題を改善する必要があります。次に、耳鼻科疾患などの全身的な問題がない場合は、小児期の「お口ぽかん」では、口唇閉鎖力が弱いために口唇閉鎖ができない可能性があります。

そのようなお子さんは、口唇閉鎖力の増強を目指したトレーニング機器が開発されておりますので、口唇周囲のトレーニングができます。

また、口唇だけでなく、舌、頬などの軟組織も一緒にトレーニングすることもあります。小児歯科の専門医や一部の開業医ではお口ぽかんの対応が可能ですので、気軽にご相談してもらえればと思います。

マスク生活が口呼吸を誘発

――予防するには、何に気を付ければいい?

まずは鼻水や鼻づまりなどがあれば耳鼻科を受診し、また、肌のかゆみや湿疹などアレルギー性皮膚炎が疑われる時は皮膚科を受診し、なるべく早めにその対応をしてもらいましょう。

一方、コロナ感染予防のために、お子さん達は学校で常時マスクを使用していると思われます。マスクは自発呼吸に負荷を与えてしまい、息苦しさから口呼吸を誘発し、お口ぽかんを増悪させる可能性がありますし、さらにお子さんの表情がマスクされますので、コミュニケーションツールとしての表情(筋)を動かさない環境になってきている点は最近の懸念材料です。

普段からお口の周囲を取り巻く表情筋を、よく動かす必要があります。例えば、ラジオ体操は、筋肉の増強という意味では効果がないかもしれませんが、日々体操することで普段使わないような筋肉を使うことになり、健康な肉体を維持することができます。同様に表情筋も動かす機会が少ないと、口腔機能の発達が遅延してしまいます。

そのため、お口の体操などを取り入れてもらうことが良いかと思います。具体的には、「あいうべ体操」や「はっけよいアニマル体操」(JSPP全国小児歯科開業医会)が推奨できると思います。

昔のご家庭では、幼い頃から「口を閉じなさい」、「口を閉じて食べなさい」などと頻回に指導がされておりました。近年では、このようなこだわりを持つ親御さんが少なくなってきているように思います。ご家庭でしつけの一環で、根気強く注意を促すことで、徐々にお子さんが口唇閉鎖を意識できるようになることも重要です。

画像はイメージ
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「お口ぽかん」が治療の必要なものだとは、知らなかった人もいるのではないだろうか? 実は、今回の研究は2017年に日本小児歯科学会でポスター発表されており、2018年に「口腔機能発達不全症」が保険治療になったエビデンスの1つになっているそうだ。

もし、子どもが小さな頃から「お口ぽかん」となっている場合、一度、医師に相談してみてはどうだろうか。
 

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プライムオンライン編集部
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