約1年3か月ぶりの宮城県震災被災地訪問
安倍首相は11月24日、東日本大震災で被災した宮城県を訪問しました。宮城県は10月の台風19号による吉田川の氾濫で大きな被害を受けた地域があり、今回は東日本大震災と台風19号の被害それぞれを踏まえ、自然災害からの復旧復興の状況を視察するという名目での宮城県訪問となりました。
この記事の画像(11枚)雨が降りしきる中、南三陸町に入った安倍首相は、佐藤町長からパネルを使って、復興状況の説明を受けました。その後、岩手、宮城、福島の被災3県から約15の店舗が集まるグルメイベントで開会のあいさつを行い、「安倍政権においても東日本大震災からの復興は最重要課題。東北の復興無くして、日本の再生なし」と8年来の決まり文句を述べ、復興に向けてともに頑張っていこうと呼びかけました。
イベントには岩手県陸前高田市のサンマをすり身にして揚げた『サンマメンチ』や、福島県南相馬市の辛味唐揚げなど、食欲をそそられる店が並んでいました。安倍首相は、フライヤーの油がピチピチ跳ねる音と、揚げ物の香ばしい香りが占める会場を一巡しながら、求められた写真撮影にはすべて応じ、「こんにちは~」「はい、握手~」などと精力的に動き回っていました。
震災当時の姿がそのまま残る震災遺構 気仙沼向洋高校旧校舎
次に安倍首相は気仙沼市に入り、気仙沼向洋高校の旧校舎を訪れました。高さ10メートルを超える津波が4階まで到達したこの校舎は、将来に渡り震災の記憶と教訓を伝える「目に見える証」=震災遺構として残された建物です。今年の3月には伝承館が新設され、防災教育に力を入れている地元の階上中学校の生徒らとともに、ボランティアの語り部が活動しています。
安倍首相はむき出しの状態のままの天井や、上下がさかさまになったロッカーなどに目をやり、時おり頷きながら神妙な面持ちで地元の中学生の説明に耳を傾けました。
「津波を車の窓から間近にみました。身体が震えました」
今回、安倍首相への説明役を担った生徒たちが通う階上中学校は、震災以前から防災教育に力を入れている学校です。当時は小学校入学前、今は中学3年になった生徒たちは、震災の記憶を少しでも広く、多くの人に伝えていこうと、震災遺構を訪れる県外の生徒らや、海外からの旅行者に対して学校の「総合の時間」を活用しての語り部の活動に取り組んでいます。
安倍首相との座談会に臨んだ5人の生徒は、一様に緊張した面持ちの中、何度も言葉を詰まらせながらも、一人ずつ、安倍首相に自分の思いを伝えました。震災当時、父親と車に乗りながら迫りくる津波を間近でみたという男子生徒は、「津波を見て、身体が震えていたのを覚えています。その時の怖さを、この活動を通じて世界に伝えていきたい、大人になっても伝えていきたいです」と話しました。
一人一人の目をしっかりと見て、相づちを打ちながら話を聞いていた安倍首相は「きょうは当時の光景が思い浮かぶような、そういう説明をしていただいた。被害がまさに起こった現場をこの目で見るというのは全く違う。次の世代に向けても語り継いでいくことがとても大切なのだと思った」と生徒らの活動に感謝の言葉をかけました。
「復興を成し遂げることが政治の責任」
最後に安倍首相は、台風19号による豪雨で堤防が決壊した吉田川流域を視察しました。国交省の職員からポンプ車による排水作業がどのように行われたかなどの詳細な説明を受けた後、復旧活動を続ける緊急災害対策派遣隊や消防団らと言葉を交わしました。その後、記者団を前に、今回の宮城県訪問を振り返りました。
東日本大震災からの復興に関しては、「復興創生期間を終えた後も、政府として被災地の取り組みを後押しし、年内の基本方針のとりまとめに向けて地元の声も踏まえて作業を加速させる」と話しました。また、台風19号による豪雨被害からの復旧に関しては「1日も早い生活と生業の再建に向けて、対策パッケージを迅速にきめ細かく実施していく」としたうえで、補正予算による切れ目のない支援を継続していく考えを示しました。
防災・減災へ…求められる政府の有効な取り組みと、国民の意識向上
今回の視察では、東日本大震災後の政府による復興プロジェクトの目玉として、今年9月に完成した気仙沼市の『みらい造船』にも足を運んでいます。これは震災で被害にあった造船4社が合併して設立された会社で、漁船を専門に建造や修理ができる東北最大級の新工場です。新工場建設にあたっては、事業費約106億円のうち、震災後の用地取得や地盤改良などに復興交付金約70億円が充てられていて、約7mの高さを誇る可動式防潮堤の内側に造られた造船施設です。
この日は、2日前に入水式を終えたという遠洋マグロはえ縄漁船が着岸していました。雨模様の中でも真新しくそびえ、見上げるほどに大きな船体は、マグロやサンマ、カツオやフカヒレ(ヨシキリザメ)など豊かな海の幸があふれ、漁業が盛んな気仙沼ならではの光景を連想させました。
震災から8年8か月。様々な課題を抱える中で、今回の視察で赴いた場所に関しては政府の復興支援策は実を結んでいるようです。一方、台風19号による河川の氾濫被害など、猛威を振るう自然災害は後を絶ちません。復興を成し遂げることは政治の責任だという安倍首相は、この先どのように防災減災の取り組み、国土強靭化を進めていくのでしょうか。有効な取り組みが求められる一方、地元の中学生が「伝える」という手段で活動を続けるように、私たち1人1人が自らの経験を活かしながら、できるところからはじめていくということも大切なのかもしれません。