「推し事(おしごと)に優しい会社」の驚き規定

アイドルや漫画のキャラクターなど、特別に強く応援したくなる「イチオシ」の存在がいる…という人も少なくないはず。そんな「推し」に関するニュースは喜ぶべきことでも、突然の発表となるとファンの驚きは大きいもの。

2015年には俳優でミュージシャンの福山雅治さんが結婚したことをきっかけに、家事や仕事が手につかなくなった…という人が続々と現れた。ましてや「推し」が突然所属しているグループから“卒業”するとなったときには、しばらく頭が真っ白、仕事なんて手につかない!という経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。

そんなショック状態から、気持ちが落ち着くまでそっとしておいてほしい…そんな時にぴったりの「推し休制度」を採用している会社があるという。

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それが、テレビCMやミュージックビデオの制作などを手がける株式会社ひろろ。なんとこの会社、独自の規定が設けられており、

・推しのライブ、イベントがある場合、一週間前までの申請で、早退、必要日数の休暇が取得可能。ゲリラライブや告知のない突発的なイベントに限り、当日即早退が可能。
・国内外の推しのライブへ参加する場合、1遠征につき国内5000円以内、海外10000円以内の補助金を支給。(要事前申請・年間4回上限)


と、あまりにオタクに寄り添った会社ということで、今大注目されているのだ。

そんな株式会社ひろろだが、話題となったのは「社員の推しの卒業が決まってしまったため、弊社の勤務規定に慶弔休暇の項目が追加されました」というTwitter投稿。

・推しが卒業する場合、一推し(一番の推し)の場合10日間、二推し以降の場合3日間の慶弔休暇を申請することができる。
・推し本人が結婚する場合、10日間の慶弔休暇を申請することができる。


という項目が追加されただけでなく、

・慶弔休暇は有給とし、通常の賃金を支給する
・精神的なダメージの度合い、必要に応じて休暇日数を加算する場合がある


という手厚さから、Twitterでは「推し事(おしごと)に優しい会社…」「マジでホワイト企業」「こんな最高の会社で働きたかった!」と絶賛の声が続々。慶弔休暇に関するツイートは5万件以上の「いいね」がついた(3月19日現在)。

その独特すぎる社内ルールに「本当にこんな会社、あるの!?」と驚いてしまうが、趣味も仕事もおろそかにしたくないという人にはぴったりに思える「推し休制度」。

この独自の制度が生まれたきっかけは?そして実際に使っている社員はいるのか? 代表の鶴見至善氏にお話を聞いた。

推しの結婚で「仕事が手につかなくなった」

――「推し休制度」が生まれたきっかけは?

弊社が元々、9nineの村田寛奈ちゃんを応援するために作った会社であり、私と同じように推しのために生きるオタクの社員に働きやすい環境にするために、ライブやイベント参加のために自由に休める推し休制度というものを以前から定めておりました。

慶弔休暇の項目は、弊社の社員の推しのあっとほぉーむカフェのひるねちゃんがご卒業されるということで、社員が落ち込んでいたため元気になるまで休んでもらいたいと思い、会社として今後もそういった社員をサポートするために追加しました。

結婚の項目については、以前仕事でご一緒していた声優の水樹奈々さんのファンの方が、彼女の結婚発表があった日に動揺して仕事が手につかなくなっているのを見て、結婚についても同様に休みが必要だと感じていたので規定に入れました。


――これらは通常の有給休暇とは別に取れるの?

はい。年次有給休暇とは別に、特別休暇として取得してもらうための制度です。

――実際に「推し休」を取得した社員はいるの?

上記の社員が早速、慶弔休暇として3日間取得いたしました。1日は即日、残り2日は卒業イベントの行われる日から2日間休むと申請を受けております。小さな会社ですので、現在申請があるのはその1名です。


――「一推し」と「二推し以降」では申請できる日数に違いがある。社長は社員の「推し」を把握している?

社員がたくさんいるわけではないので、普段の会話から把握できていると思います。申請させないと、推しの順番や人数などをごまかす社員もいるのでは?と聞かれたりしますが、社員も真剣に応援に打ち込んでいて、オタクとしてのプライドがあるため、そういったことはしないし、できないと思っています。
 

「理解されづらい辛さや痛みが減る世の中に」

働き方改革により、長時間労働の解消に向けた様々な取り組みがなされている現在。年次有給休暇の取得も常々呼びかけられているが、実際には「周りが働いている中、自分だけ休むのは…」となかなか申請しにくい、という人もいまだ多いだろう。

そんな中、株式会社ひろろは「推しだけでなく、誰もが大切な人と過ごす時間を充実して過ごすため」に、休暇が取りやすい社会作りが必要だと話す。


――仕事と休暇のあり方をどう考える?

家族のため、子どものため、自分のため。仕事というのはみんな自分や自分にとって大切な誰かのために頑張っている所があるのではないかと思います。オタクにとってはそれがたまたま、血の繋がりも無ければ、お金を払って応援する対象である推しであったというだけで。

また、自分のために頑張る時よりも、誰かのために頑張る時の方が、人は幸せを感じられると言われています。

推しだけでなく、誰もが大切な人と過ごす時間を、めいっぱい楽しく、充実して過ごすために休暇を取りやすい社会になれば、より仕事にもやる気がでて、幸せを感じられるようになるのではないかと思っています。

私自身も推しという、全力で頑張れる大切な人がいることはそれ自体幸せなことだと感じていますし、村田寛奈ちゃんにたくさんお金を使いたいので、これからも頑張って働こうと思います。

――今回の大きな反響、どう思った?

思ったより多くの方から、好意的な反響を頂き、本当に驚き、うれしく思っております。

オタクの応援活動は普段なかなか周囲に理解されないこともあり、知られたくないという方も多いです。推しの卒業や結婚という一大事にも一人で落ち込んだり、無理をして仕事に行かなければならなかったという声も、今回多くありました。

オタクに限らずですが、今回のことをきっかけに「自分とは違う生き方の人もいるんだな」と気づいてもらい、ほんの少しでも、そういう理解されづらい辛さや痛みが減っていく世の中になったら良いなと思います。


「推し休制度」という、一見奇抜な規定。しかしその背景にあったのは、決して"オタク"のためだけでなく、誰もが働きやすく充実した時間を過ごすためという、最先端の働き方改革のかたちだったようだ。

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プライムオンライン編集部
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