バイデン新政権発足、中国メディアは歓迎ムード

「アメリカはバイデン大統領時代を迎える」

これはアメリカで1月20日に行われたバイデン新大統領の就任式を伝える中国メディアの一面記事の見出しだ。

新たに就任したバイデン米大統領
新たに就任したバイデン米大統領
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中国共産党系メディアの「環球時報」は21日付けの紙面で、就任式の様子を大々的に報じた。「トランプ氏は歴史の笑いものとなり、中国とアメリカは未来に向かわなければならない」という見出しの社説も掲載。この中では、対中制裁関税など強硬路線を取ったトランプ政権下の4年間でも中国は経済成長を遂げたと自画自賛した上で、「トランプ氏はその4年間で中国を抑えつけることは、賢く現実的な選択ではないということを証明した」と強調した。そして最後は「バイデン政権には中国と協力を展開する勇気があってほしい」とトランプ前政権下で対立が深まった米中関係の修復に期待感を示した。

バイデン新大統領就任を伝える「環球時報」(1月21日付)
バイデン新大統領就任を伝える「環球時報」(1月21日付)

また、中国国営テレビの国際チャンネルのニュース番組では、朝からトップニュースで就任式を伝えた。番組はバイデン氏の経歴などを紹介した上で、今後の米中関係の見通しなどについて、専門家の見方も交えて報じた。

中国メディアの報道は概ねバイデン新政権の誕生を歓迎するものだった。こうした報道の中で、ある人物を史上最低とまで罵る、ある記事の見出しに目が留まった。

中国メディア「永遠にさらばだ、米国史上最低の国務長官よ」

「永遠にさらばだ、米国史上最低の国務長官よ」

これは中国国営メディアの一つ、中国国際放送局(CRI)が就任式の前に掲載した評論記事の見出しだ。中国国営メディアは中国共産党や政府の「喉と舌」とも言われ、当局の方針を宣伝したり、世論を誘導する役割を担っている。評論記事は日本語で書かれていて、日本向けに中国側の立場を宣伝する狙いもあるとみられる。

記事はポンぺオ氏を名指しし、「米国では政権交代が秒読みになっても、一人の人物がいまだに寸秒を争って衝突を挑発し、対立を作り出し、いわゆる“最後の悪あがき”を演じている。その人物とはすなわち、“虚言・詐欺、盗み”を自らの栄光とするポンペオ国務長官だ」と強く非難している。さらに「“授業終了の鐘”が鳴った。ポンペオ長官がどれだけ悪あがきをしても、弱々しく無力な最後のあがきだ。さようなら。いや、二度と会うことはない。米国史上最低の国務長官よ」と、ポンぺオ氏への訣別宣言で締めくくっている。

トランプ前政権で国務長官を務めたポンペオ氏
トランプ前政権で国務長官を務めたポンペオ氏

中国当局の方針を代弁するとされる中国国営メディアが、なぜトランプ前政権下でアメリカの外交を統括してきたポンペオ氏について、このように厳しく批判したのだろうか。

背景には「ポンペオ氏悪玉論」か、今後の米中関係の行方は

背景には中国側の関係者が抱いている、いわゆる「ポンペオ氏悪玉論」があるとみられる。トランプ前政権が中国と激しく対立していた最中、私が取材で面会した中国当局の関係者らの多くからトランプ氏よりもポンペオ氏に対する批判を頻繁に聞いた。

ある関係者は「トランプ氏は大統領という名前のビジネスマンだ。外交はポンペオ氏の言うことを聞いているだけだ」と述べ、ポンぺオ氏が黒幕との見方を示した。また、別の関係者は「ポンペオ氏は確信犯だ。次の政権に反中国の路線を背負わせようとしている」と怒りを露わにした。

中国当局の関係者らにとって、ポンペオ氏が取ってきた対中強硬路線に対する不信感が如何に根強いものだったかがわかる。

前述の中国メディアが一方的にポンペオ氏を批判した際に使った「最後の悪あがき」という言葉にも、それが表れている。この「最後の悪あがき」というのは、ポンペオ氏が就任式前日の19日に発表した、ある声明を指しているとみられる。

ポンペオ氏の声明は、中国政府によるウイグル族らへの弾圧を民族大量虐殺と認定したもので、ウイグル族100万人以上が中国共産党の指示と管理の下で施設に収容され、不妊手術を強制されたり、拷問を受けたりしていると指摘し非難している。

これに対し、中国外務省は会見で、「我々から見れば紙くずだ。ポンペオ氏が流した様々な嘘と毒は必ず本人と一緒に歴史のゴミの山に捨てられるだろう」と強く反発。その後、ポンペオ氏を含むトランプ前政権の高官ら28人に対し、中国への入国を禁止するなどの制裁を科したことを発表した。報復と言える制裁発表のタイミングは、バイデン新大統領の就任式に合わせられていた。新政権をけん制すると共に、これまでトランプ前政権に対してどれだけ鬱憤がたまっていたかをにじませた形だ。

中国外務省は21日の会見で、「次の政権には客観かつ理性的に中国、そして中国とアメリカの関係を扱ってほしい」と注文をつけた。

中国外務省の会見(1月21日)
中国外務省の会見(1月21日)

バイデン新政権は当面、中国への強硬姿勢を維持する方針で、人権問題でも中国に厳しく対処すると見られている。中国にとっての“悪玉”ポンペオ氏が政権中枢から去ったとしても、米中の対立が直ちに解消するわけではない。米中関係の先行きは依然不透明であることは間違いない。

【執筆:FNN北京支局 木村大久】

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(防衛省担当)元FNN北京支局