新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。神奈川県内では22日、過去最多の348人の感染が明らかになった。神奈川県の黒岩祐治知事はこれまで「マスク会食」を奨励してきたが、効果がなかなか見られないかたちだ。感染拡大を止めるため神奈川県の次なる策は何か?黒岩知事にコロナ対策の現状と今後について聞いた。

医療現場のため新たな入院基準の運用開始

――まず現状の感染状況の受け止めと神奈川県の医療現場の状況について教えてもらえますか。

黒岩氏:
危機的状況というのが正直なところです。感染者数の急増で医療現場は深刻な状態です。これから最も心配なのは、医療機関が年末年始で縮小することです。その時に持ちこたえられるのかどうか、相当切迫した状況になっています。

神奈川県新型コロナウイルス感染症対策サイトより
神奈川県新型コロナウイルス感染症対策サイトより
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――神奈川では、医療現場の逼迫を緩和させるために、患者の年齢や基礎疾患の状態を点数化したあらたな入院基準の運用を始めましたね。

黒岩氏:
医療現場から「どんなに頑張ってもどんどん感染者が送られてくる。この状況に強力なブレーキをかけてほしい」という切実な声があります。これまで神奈川モデルとして重症、中等症、軽症、無症状に分け、軽症と無症状の患者は宿泊療養施設か自宅にいて経過観察をする流れを作りました。しかし医療が逼迫する中でよりきめ細かな基準を設けようと、たとえば年齢は65歳から74歳であれば2点、75歳以上だと3点、また基礎疾患に応じて点数をつけ、5点以上になると入院の目安とするという点数制をつくって動き出しました。

神奈川県では入院の目安とする点数制を導入
神奈川県では入院の目安とする点数制を導入

宿泊施設や在宅の患者用マニュアルを改善

――今月11日に軽症と診断され宿泊施設に入っていた50代の男性が亡くなり、入院基準の運用の難しさがあらためてわかりました。

黒岩氏:
我々にとって衝撃でした。亡くなられたご本人に哀悼の意を捧げ、ご遺族の皆さんに心からお悔やみを申し上げます。一体何が起きたのかを解明するために今後第三者による検証委員会をつくろうと考えていますが、これまでの報告を検証すると県の対応にも問題があったとも言わざるを得ないと思いました。

――といいますのは?

黒岩氏:
血中の酸素濃度が本来ならば医療機関に送らなければならない値が一時出ていたのですが、患者さんご自身から「息苦しさはない」との聞き取りができていました。しかしその後電話をかけても応答が無く、本来ならば異変を想定して患者の元に行くべきだったのですが、何度か電話を繰り返し実際に行ったのは4時間後だったということです。ただ電話をかけても寝ていて応答のない方が多く、現場だけを責めるわけにはいきません。そこで応答がなければ患者の元に必ず確認に行くようマニュアルを改善しました。宿泊療養施設や自宅にいても安全安心が保てるよう、いまできることはすぐにやっていきたいと思います。

「会食になった途端マスクを外すのはおかしい」

――Go Toトラベルについて伺います。今月28日から1月11日まで全国で利用が一時停止になり、東京や名古屋などではすでに除外となっています。これについてどう評価しますか?

黒岩氏:
大きな決断だと思いますが、Go Toトラベルと感染者数の相関関係が明確だとは思っていません。この事態を受けて政府は様々な声を斟酌しながら決断されましたが、神奈川県としていま特にGo To トラベルに対して何かをしようとは考えていません。

それよりも感染の原因として実感しているのは会食です。皆さん、外ではマスクをして歩いているのに、会食になった瞬間にマスクを外す。どう考えてもおかしいですよね。

――黒岩知事はマスク会食をずっと訴えていますね。

黒岩氏:
会食するときはマスクをつけてください。つまり食べる時は無理ですが、食べる時以外はマスクをしてお話をしてください。それができないのだったら、会食そのものをやめてくださいと。感染者が急増していることを受け、県ではホームページに「20代から50代の方は居酒屋・繁華街に行かないで」とメッセージを出しました。

「20代から50代は居酒屋・繁華街に行かないで」
「20代から50代は居酒屋・繁華街に行かないで」

――飲食店への時短営業の要請はどうなっていますか?

黒岩氏:
飲食店などへの営業時間の短縮要請は当初今月17日までだったのですが、この事態を受けて1月11日まで延長しました。要請への協力金はこれまで1店舗あたり1日2万円でしたが、4万円にさせて頂きました。

「緊急事態宣言も視野に入ってきたのでは」

――とはいえ人の動きは止められません。今後国が再び緊急事態宣言の発出を考えるべきだと思いますか?

黒岩氏:
これまでの営業時間短縮やメッセージだけで本当に乗り越えられるかどうか。場合によっては緊急事態宣言も視野に入ってきたのではないかと現場の実感としてはあります。最終的には分科会、そして政府が判断されることだと思いますが。

――年末年始ですが、神奈川県では初日の出を見に湘南海岸、初詣に川崎大社や鶴岡八幡宮など多くの人が訪れます。これに対する注意喚起はありますか?

黒岩氏:
「初詣は参拝時期をずらしましょう」といったキャンペーンを、神社庁と相談をしながらやっています。鉄道はこれまで大晦日の終夜運転がありましたが、相鉄グループにいち早く中止して頂きました。また一都三県で、小池東京都知事を中心にJRやすべての私鉄に終夜運転中止をお願いしました。これまでのように参拝を集中させず、時期をずらして参拝してくださいとお願いしているところです。

神奈川県「初詣は参拝時期をずらしましょう」
神奈川県「初詣は参拝時期をずらしましょう」

感染した受験生は不利にならない配慮する

――年明け県立高校の3学期開始はいまのところ予定通りですか?また高校入試がありますが、学校側にどのような注意喚起を行う予定ですか?

黒岩氏:
学校に対しては時差通学をお願いしていて休校は考えていません。入学試験では、受験生が感染したり濃厚接触者になる可能性がありますから、そういう場合は時期をずらして受験できる場を設けて、不利にならないような配慮をしていこうと思っています。

――シングルマザーなど生活に困窮している家庭に対しての神奈川県の支援策は?

黒岩氏:
困窮されている賃貸住宅にお住まいの方には、住居確保給付金制度があります。またコロナの影響によって休業や失業、収入が減少した世帯に対しては生活資金の貸し付けでお支えする用意があります。こうしたメニューを用意していても、なかなかご存知無い方もいらっしゃるので、周知をしっかりやっていきたいと思っています。

「感染しない環境」をテクノロジーで実現へ

――最後にこれまで神奈川県は様々な新しい取り組みを行ってきましたが、新たな“神奈川モデル”がありましたら教えてください。

黒岩氏:
「感染しない環境」を実現するテクノロジーがあるのではないかと思っています。皆さん1人1人がマスクなどをして、飛沫が飛ばないように自分で防御するのも殺菌ですね。殺菌を新たなテクノロジーを駆使してやっていく。いま様々な情報収集をしながら、実現できるかどうかリサーチしているところです。

黒岩知事「感染しない環境をテクノロジーで実現したい」
黒岩知事「感染しない環境をテクノロジーで実現したい」

――ありがとうございました。

(関連記事:医療崩壊の回避だけではなかった “神奈川モデル”を成功させた黒岩知事の出口戦略とヘルスケア政策

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。